憎いくらいに眩しい太陽。
憎いくらいに煩く鳴く蝉。

憎いくらいに暑い季節。


俺、笹倉 楓(ササクラ カエデ)は夏が大嫌いだった。





「楓、ちょっと頼みがあるんだけどさ」




チャイムが鳴り響き、放課後を告げる。


母さんが今日の晩飯は冷やし中華だと言っていたことを唐突に思い出し、足早に昇降口へと階段をかけ降りていた時だった。

後ろから肩を叩かれ、少し驚いて振り返ると、そこにいたのはたいして仲の良いわけでもないクラスメイト。



「何?頼みって」

「いや、さ……先生から頼まれた仕事なんだけど、俺ちょっと用事があって。お前に頼みたいんだけど」

「………」


俺があからさまに嫌な顔をすると、そいつは少し焦りながらも言葉を続けた。


「そんな顔するなよ!俺、友達と前から約束しちゃっててさ!」


なんだ、用事って……友達と遊ぶ用事だったのか。
そういえばこいつは部活入ってなかったな。

だんだんと込み上げてくるイライラを押さえつけて、俺は言った。


「いいよ。何をすればいいの?」

「まじか!?サンキュー!旧校舎のカウンターに数冊本が置いてあるから、それを本校舎の図書室のカウンターに戻してきてくれるか?」


思わずため息が漏れそうになった。

旧校舎の図書室って、ここからかなり遠いじゃないか。
なんだってそんなところまで行かなくちゃいけないんだ。
早く帰りたかったのに。

でも、やると言ったからにはやらなければいけない。




「……わかった」