高校の入学式をひかえた春休みのある日。
僕、笹木 優は
“コンビニ外山”という、東京に
してはけっこう都会的ではない、珍しい雰囲気
の店へと入って行った。
春休みだというのに、そのコンビニには客は僕
一人しかいなかった。
買い物は苦手だ。
だって、
「ポイントカードはお持ちですか? 」
なんて言って笑いかけるレジ店員の声に、生ま
れつき耳が聞こえない僕は答えることができな
いから。
読唇術で唇の動きを読んで、手話で話すことが
できるけれど……実際それで、会話が成立する
ことはほとんどない。
それなのに、
わざわざコンビニに行ったのは、
自販機には売っていないジュースが欲しかった
から。
それに、誰も声なんてかけないかも
しれない。
そんな淡い期待をしながら、レジへと向かう。
しかしそのレジ店員は、客に
「ポイントカードはお持ちですか?」
としっかりたずねるタイプだった。
「………………。」
とりあえず僕は、手話で
「持っていません。」
と伝えてみる。
大抵の人は、不思議そうな顔をしてこっちをみ
るだけだけど。
いつもは感じないけれど、こういう人とふれあ
う時にはやっぱり、自分のハンディが重く、僕
へとのしかかる。
-自販機にしとけばよかったかな……。
そう思った次の瞬間、そ店員は手話で僕に
「じゃあ、ポイントカードを作りませんか?」
ときいてきたんだ。
その店員さんは、僕よりも背の小さい女の子だった。
