好きな人を姉にとられる。
絶対、辛かったはずだ。
あたしが想像する以上に、苦しくて、悲しかったんだろう。
だけど悠夢は、笑顔だった。
応援してくれた。
あの時も、あの時も。
「あたし、言えなかった。お姉ちゃんの彼氏の名前を、聞いた時……知ってる人だって、言えなかった」
「うん……」
「だって、好きな人だったんだもん……嘘だと思った。夢だと思った。そう…信じたかった」
「…………」
悠夢は泣きそうになるのを我慢しながら話す。
声が、震えている。
肩が、震えている。
その姿を見て、何も言えなくなった。
「お姉ちゃんが幸せそうに笑ってると、悲しかった。別れちゃえばいいのにって、幸せを潰したいって、思ってた。……何度も、何度も。最低だよね……っ」
悠夢は雑巾を握る手に力を込めた。
あたしが笑ってた時、悠夢は泣いていたのかな?
渉くんと笑い合っていた時、悠夢は独りで苦しんでたのかな?
あたし、なにも考えてなかった。
悠夢の様子が変だって気づいてたのに、声を掛けなかった。
なんなんだろう、としか思わなくて、悠夢と話そうとしなかった。
もしもあたしがもっと早く話していたら……悠夢はこんなに苦しまなかったのかな?


