トレモロホリディ

想像もしていなかった風貌の男性の登場にちょっと驚きつつ、私はティッシュの箱を差し出した。


その箱を怪訝そうに受け取るその人。


何も言ってくれないんだな。


「どうも」とか「ありがとう」とか、何か言うことはないのかしら。


まぁ、こんな派手な人だもの。


礼儀とか知らないのかもしれない。


「そ、それでは失礼します」


さっさと立ち去った方が良さそうだ。


そう思って頭を下げた時だった。


「ねぇ」


私を呼び止めるやたらと澄んだ声にドキッとして、進もうとしていた足を止めた。


「はい?」


え……?


なんで呼び止められた?


「あのさぁ。

もしかして、ここのアパートの住人全員に挨拶するつもり?」


「へ?」


なぜそんなことを聞かれるのかわからなくて、目がパチパチしてしまう。


そんな私を見ながら、男性はスッと腕を組んだ。