トレモロホリディ

「えー、それにしては…」


ミナト君が顎に手を当てる。


それにしては?


それにしては…、何だろう?


「ミナちゃんの料理の味って、


穂波さんの味に似てる」


「え…?」


似てる?


「今食べた親子丼って、穂波さんに教わったレシピとか?」


「ううん。私、まだホールしか担当してないから、穂波さんの味付け方法は知らないよ。

もちろん、これから教わりたいけど」


私の言葉にミナト君が何か考えているようだ。


「ふぅん。あーなるほどな」


「え、何?」


何を一人で納得しているんだろう。


「あ、ごめんごめん。

いや、あのね。

穂波さんが女の子を雇うなんて、今までなかったことだから、ちょっと珍しかったんだ」


あ、そう言えば。


赤い髪の人が、今までアルバイトは男の人ばっかりだったって言ってたよね。


「夜中にレギュラーで働きたがる人がいないから、なかなかアルバイトが見つからなかったらしいね」


私がそう言うと、ミナト君が目を丸くした。


「違うよ。あの店で働きたがる女の人は沢山いたけど、穂波さんが全部断ってたんだよ」


「え…?」


どういうこと?


「彼女、人を見る目があるからね。

出会ったその日に即採用なんて。

ミナちゃん、相当気に入られたね」


「えぇっ、そうなの?」


もしミナト君が言うことが本当なら。


穂波さんは、どうして私を気に入ってくれたんだろう?