トレモロホリディ

彼女の話をする湊君は、終始寂しそうで悲しそうで。


そんな湊君を見ていると、こっちまでせつなくなってしまった。


「こんな古いアパートに住んでいるのもね。

貯金をするためだったんだ。

彼女と連絡が取れたら、もっと都内へ引っ越さないといけないしかもしれないし。

すぐに仕事が見つからないかもしれないからね。

そのためには、充分お金を貯めておかないといけないって思ったから。

でも…。

こんなことも、もう無意味なことなのかもね…」


「湊君…」


「大体さ、もし今彼女と再会しても俺、ボーイズバーの店員だよ。

そんな俺に、彼女は魅力を感じてくれるのかな。

彼女は夢を叶えているのに、俺は夜の仕事をしている。

ガッカリされるんじゃないかって…。

そう考えると、それはそれでつらいんだ…」


湊君はふぅと息を吐くと、自分の膝をチェアーの上で抱えた。


「ごめんね、こんな話して…。

情けないでしょ?

でも俺ってね、所詮こういうヤツなんだ。

こんな派手な頭してたってね、中身はただの冴えない田舎者なんだ」


フッと鼻で笑う湊君。


「そんなこと…」


そんな弱気な湊君、全然似合ってないよ。


「ううん。実際そうなんだ。

毎晩仕事に出るたび、一体何やってるんだろうって思う。

もうここにいる意味なんかないのに、でも田舎に帰ったって、俺の居場所なんてないし。

だから、ここで生きていくしかなくて…。

毎日不安で、苦しくて。

押し潰されそうなんだ…」


そう言うと湊君は、顔を伏せてしまった。