トレモロホリディ

「そうだ、湊君。

湊君って絵が上手なんだね。

メモに描かれてた絵、笑っちゃった。

だって、湊君にすごく似てたから。

絵、描くの好きなの?」


私の言葉に、湊君がにんまり笑う。


「うん。俺、昔から絵を描くのは好きだったよ。

授業聞かずに、ノートの端に絵ばっかり描いてた。

ヒマさえあれば、描いてたって感じ」


「へぇぇ、そうなんだ」


私は絵が苦手なんだよね…。


上手な人がうらやましい。


「ちなみに俺、中学も高校も美術部だよ。

ね?おとなしめでしょ?」


ベッドに横になりながら、クスッと笑う湊君。


湊君って、美術部だったのか。


確かに意外な感じはするかなあ。


「もう絵は描かないの?」


「うーん。

さっきみたいな簡単な絵なら、仕事中にお客さんの前で紙コースターに描いたり、紙ナフキンに描いたりするけど。

画材を使って本格的に描くのは、今の仕事を始めてからは全くないよ。

前は休みの日に、描いたりしてたんだけどね」


「えー。それはもったいないよ。

また描いてみればいいのに」


「え?」


「だって、好きなんでしょう?

湊君の本格的な絵、見てみたいなあ」


私の言葉に、湊君が目をパチパチさせる。


「そ、うだね。

なんとなく描いてなかったけど。

また描いてみようかな?」


「うん。

ぜひ!また描いてみて」


私は特に趣味がないから。


せっかく好きなことがあるなら、絶対続けるべきだと思うもん。