片思い

「え?」

「みんな心配してんだぞ!?」

「じゃあ真哉が早く来てくれればよかった!」

真哉の肩がびくっとなる。

しばしの沈黙。

「とにかく帰るぞ」

コクン
頷いて、荷物を拾いあげる。

真哉は手を差し延べてくれなかった。
横に5㍍くらい離れて帰った。
私には何億km離れているようにさえ思えた。

玄関の前で一言。

「俺も悪かった。ごめん。目冷やしとけよ」

「真哉聞いて!」

「ごめん。今は聞く気になれない」

「しんっ」

下唇を血が出るんじゃないかと思うくらい噛んで、真哉は涙を堪えていた。

「わかった。明日朝、先に行くから」

「・・・・・・・・」

「―――――バイバイ」

玄関の戸を開け、中へ入る。
一度も振り返らなかった。


両親にはこっぴどく怒られた。
窓の外の夜空に浮かぶ月だけは励ますかの様に、優しく光っていた。