照「…なん、だって?」

俺の口から出た言葉は、掠れた声だった。

きちんと言葉を紡げていたのかも疑問なほど、微かにしか唇が動かなかったからだ。

神「もう一度言おう。





綾子を付け回してるのはテメェだろ、高野照史」

照「付け回してる…?俺は、綾子の彼氏だ!」

神「同じことを何度も言わせるな。綾子が、お前に付け回されていると言って泣き腫らした目で俺に相談して来たんだ。」

お前で間違いないな?と念を押してそう言う神崎に、俺の頭の中は混乱していて、言葉を返すことが出来なかった。

神「沈黙は肯定と受け取っておくぞ。」


神崎はそう言って、俺を睨みつけた。

それに対して、俺は睨みかえすこともできなかった。





どういうことだ?





おれが綾子を付け回している・・・?


そんなこと、あるわけがない。


俺は綾子の恋人だ。

三か月前に綾子に告白されて、それから付き合い始めた。
初めはそれほど好きではなかったが、今では綾子のことをとても大切に思っている。

ほぼ毎日電話をして、たまに日曜日にデートをして

キスとかはしたことがなかったが、それでも俺は綾子のことを大切にしている。



好きなんだ。





神「お前、覚悟はできているんだろうな。」

神崎は俺に近づいてくる。

それを、俺は神崎を睨みつける形で威嚇した。



照「神崎、お前は綾子のことが好きなのか?」


神「あぁ・・・好きだ。」

神崎は俺に対して、率直にそう答えた。

その答えに、嘘なんてものはない。


俺の頭の中は今でも混乱していて、何も考えがまとまっていない。



しかし、その中でも、俺はある仮説にたどり着いた。


照「俺じゃなく、お前がストーカーなんじゃないのか?」


神「何・・・?」


俺のその発言に、神崎は怪訝な表情をした。

しかし、すぐに先ほどと同じ様な、いや、それ以上の怒りを浮かべた表情で、俺を睨みつけた。


神「覚悟はできたか、三下。」


照「・・・こいよ。」


俺のその答えに、神崎は即座に殴り掛かってきた。





















薄らと目が開いた。





俺は何をしていたんだ・・・


起き上がろうとしたが、身体が言うことを聞かない。

手に力が入らない。

そこで、気が付いた。何故俺がこうもボロボロになっているのかを。


負けた、のか・・・。


県最強と言われる男相手に勝てるわけがない。
体格差もあり、何より拳が重かった。

それでも、俺は勝気でいた。

もしもあいつが綾子のストーカーだったとしたら、彼氏である俺が守ってやらなきゃならない。
あの泣き虫で怖がりな綾子を守れるのは、俺だけだ。

早く綾子の元に行かなければ。

いや、それよりも先に神崎に勝たなきゃならない。
神崎に勝って、綾子に神崎のことを聞いて、そして・・・







周囲の景色を見るが、俺が寝転んでいるところは神崎と殴り合ったところではない。

何処だ、ここは・・・・


俺が道の端っこに倒れていることだけは理解できる。

しかし、それ以上はどうも頭が回らない。


頭まで逝っちまったか・・・。


そういや、最後に神崎に頭突きをされたような気がするな・・・。





まずは立ち上がらないと話にならない。

しかし、今は身体に力が入らない。



畜生・・・。



動け、身体・・・・・・