お昼ご飯を食べて、ある程度明日の仕事の準備をして、
時計の針が約束の時間の二時間前になったころ、
私は少しだけおしゃれをして家を出た。
別にデートがあるから、とかそういう考えがあるわけではないが、
久しぶりの外出だから、ちょっとだけおしゃれをしてみようかと思っただけで…
『(誰に言い訳しているんだか…)』
一人でいろいろ言い訳を考えたら、ちょっとだけ疲れてしまった。
というか、言い訳を考えたところで、だれに話すんだろう自分は。
それよりも…
高野さん、元気にしているだろうか…
まだ怪我をした身体なのだから、職場で怪しまれていたり、しているかもしれない。
彼が望んだ喧嘩ではないのだから、これ以上彼に損なことが起きなければ良いが…
駅から近いショッピングモールで、私は高野さんに対するお詫びの品を選んでいた。
男の人が何を貰ったらうれしいのか分からないけれど、
男女関係なく渡されてもうれしいものが良い。
とすれば、職場で使うものでも探そうか…
文具店の前を通った時、ふと目に入ったものがあった。
『あ、これ…』
待ち合わせの駅前に、約束の10分前についた。
すると、すでにそこには高野さんがいた。
『ごめんなさい!待った?』
照「あ、いや、さっき来たばかりだから大丈夫。」
少しだけ小走りで走って高野さんのもとまで行くと、
高野さんは慌てなくて大丈夫だから、と笑った。
その顔が、少しだけ大人っぽい服装と相まっていて、
ほんの少しだけ、トクンと心臓の音が早くなった。
これは男の人に免疫がないからだ。
そうだ、そうに違いない。
自分の中でそう納得して、改めて高野さんを見上げた。
『それじゃあ、行こうか。』
照「あ、あぁ…」
バイキングがあるところまでは、ここから徒歩5分ほど。
目的地に着くまで、少しだけおしゃべりでもできれば、と思って駅前集合にした。
二人でゆっくりと歩き出しながら、取りあえず気にしていたことを聞いてみた。
『高野さん、身体はもう大丈夫?』
照「あぁ、もう大分痣も消えてきた。本当に世話になったな。ありがとう。」
『いや、私はそんなに大したことをしていないから…』
照「いや、世話になったのは本当だから。」
譲ろうとしない高野さんに、少しだけ笑ってしまった。
私もだけど、彼も少しだけ頑固なようだ。
彼とは気が合うかもしてない。
少しだけそう思っていた時
前方から自転車が走ってきた。
丁度私が歩いていた方で、
ちょっとだけ高野さんの方に寄ろうとしたら、自転車に乗っている人は携帯電話で通話していた為、ふらふらしていた。
『(あ、ぶつかる…)』
ぐらりと揺れた自転車を目で追いながら、他人事のようにそう頭が認識したとき。
照「大谷サン…!」
グイッと、高野さんに腕を引かれた。
『わ…ッ』
横に身体が傾き、体制を整えられない、と思わず目をつぶってしまった。
しかし、背中にぽすんと暖かい感触がして……
『高野さん…』
照「大丈夫か?」
頭一つ分ほど身長が違うからだろう
上を見上げると、高野さんはちょっとだけ私の様子を伺うように、首を少しだけ曲げていた。
『だ、大丈夫です。ありがとうございます…』
思わず丁寧語で答えてしまった。
いや、というかこの体制………
思わず頬が赤くなる。
だって、これ…………
すごく密着して…
意識してしまってからは、行動は早かった。
すぐに高野さんから距離を取った。
『あ、あの。…行こっか。』
照「お、おう。」
照史さんもすぐに私の隣について歩いてくれた。
けど…
それでも、店に着くまで、私の頭からさっき感じた背中の温もりは消えなかった。
『(もう少し、可愛い悲鳴とかなかったのかな…!)』
