私が目を覚ますと、太陽がほとんど真上にまで登っていた。
久しぶりにこんな時間まで寝たな。
仕事柄、朝は早く起きるため、それが身体に癖付いているが…
それでも、ここ二日はいろいろあったからか、いつもより少し疲れがたまっていたようだった。
少しだけいつもより重たい身体を起こし、隣に寝ているであろう彼へ顔を向ける。
が、彼がいない。
『あれ、あの人…』
照「ここだ。」
ポツリを呟くと、リビングの方から声が聞こえた。
そちらを見ると、彼は彼が着ていた服を着て、私を見下ろしていた。
照「ちょっと着替えてた。」
そう言った彼の服を見ると、あぁ、昨日の夜に畳んでおいていたが、きちんと着てくれたんだな、と理解した。
『一応昨日洗ったんだけど、大丈夫だった?』
照「あぁ、何から何まで助かった。ありがとうな。」
そう言って、彼は私の前で正座した。
私はまだ寝ぼけた頭なので、彼の行動に頭がまったくついていかない。
『え、と…どうしたの?』
照「きちんとお礼を言わせてほしい。」
そうキリッとした目でいきなり言ってくるので、
私も思わず布団の上で正座した。
照「この二日、怪我の手当だけでなく、服や食べ物、寝床まで用意してくれて、本当に助かった。
きっと、大谷サンに助けてもらえてなかったら、オレは警察行きだったと思う。」
確かに、社会人であるならば、警察にお世話になったというだけで、職場に迷惑がかかるかもしれない。
なるほど、だから彼は警察を呼ぶことを拒否したのか。
理由も理由だから、警察を呼ばずに自分が手当をして良かったな、と思った。
照「ほんとうに、お世話になった。
ありがとう。」
そして彼は、頭を少しだけ下げ、礼を言った。
けれど
『頭をあげて。私は、そんなにお礼を言われるほど何かをした覚えはないよ。』
頭を上げた彼と目を合わせ、私は笑いかけた。
『だって、私があなたを助けたいと思っただけだもの。』
そう、だって、彼に警察を呼ぶなと言われても、結局警察を呼ばなかったのは私の判断なのだ。
彼の世話をしたのも、私の自己満足なのだし、
彼に礼を言われたいからしたわけではない。
それに
『貴方の辛い話を無理矢理聞いてしまったし、私が謝るべきだと思うよ。』
ごめんなさい、と今度は私が頭を彼に下げた。
それに、今度は彼が慌てた。
照「いや、それもオレが話を聞いてもらいたいと思った話しただけだ。大谷サンが謝ることじゃないし…、やっぱり、俺は大谷サンにすごく世話になったんだ。謝らないでくれ。」
彼は少しだけ慌てて、早口でまくしたてた。
この二日で、彼の怒った顔や悩んでいる顔、悲しそうな顔を見たけれど、
慌ててる顔は彼を幼く見せた。
照「何か、礼をさせてもらいたいんだ。飯でも…」
そう切り出した彼に、私は少しだけおかしくなった。
これじゃあ、何かの出会いみたいじゃないか。
まるで、何かが始まるような、そんな予感がする。
少しだけ笑ってしまった私に、彼は怪訝な表情をする。
そんな彼に、私は彼の言う”お礼”に最適なものを見つけたのだった。
『それじゃあ…』
土曜日の昼、私は誰もいなくなった部屋で、持って帰ってきた仕事をこなしていた。
自分が寝ていた布団もベランダに干し、
ついでに最近忙しさにかまけて干していなかったベットのシーツも干した。
外の風が部屋に入り、外で休日を楽しむ子供達の声が風に乗り聞こえてくる。
誰もが休日を楽しむ中、
プリントがちりばめられたリビングのテーブルの上で、私はパソコンをポチポチと打つのだ。
休日返上で仕事をしているにも関わらず、気持ちは晴れやかだった。
『…高野照史、か。』
パソコンの横に置かれた携帯の電話帳
今日一人増えた者を思い出しながら、
私は少しだけ頬の筋肉がゆるんだ。