ピピピと軽快な音がして、香が「風呂沸いたから順番に入れ」と告げた。じゃんけんで勝った私は着替えを用意しようと椅子から立った

「香ちゃん服借りていい?」
「あ?取りに…行ってないのか」
「あ、ごめん…雨に当たらないくらいの速さでダッシュしてくるわ」
「あーはいはい俺が悪かったよ…」

香に連れられて別の部屋に入り、タンスをあさられたと思えばTシャツをくれた。それから端の棚をあけて私をそこに押す。棚を見れば前になくしたと思っていた下着。ばっと香を見れば目をそらされた

「…集めてたん?」
「違うわ。…母さんが返すタイミングなかったって」
「なるほどなー…ん、おっけ」
「風呂入ってこい」
「んじゃお先にお風呂借りるわ」

広いお風呂に入っているといきなり揺れた。地震だ、と確信してタオルを巻いて風呂に浸かろうとしたがこけてその場に座り込んだ。…少しすりむいたみたいだ。膝が血で滲んでいる。少しするとドアが開き香が「大丈夫やったか!?」とずかずか入ってきた。靴下濡れるで。

「お、おん…そっちは大丈夫かいな」
「おう、二人は布団にもぐってぎゃあぎゃあ言うとる。…おい、膝立てんな中見えるで」
「そらアカンわ。…あいたっ」
「どした?」
「しゃがもうと思うて転けてな、すりむいたみたいやわ。…うちは大丈夫やき二人んとこおっときなよ」
「あいつらはええねん。…お前1人やし風呂やし…女やろが」
「大丈夫やって!…余震に気をつけときゃ怪我もせんから。…な?」
「やからお前が俺心配するみたいに俺も心配なんやて!余震に気をつけときゃとか言って…っうお!」
「うわっ!大丈夫かいな!?…あっは、ラブコメみたいやねえ」
「ホンマにな」

余震に気をつけるとか言ってるうちに余震が起こり、立っていた香は私に倒れ込んだ。もともと座っていた私に倒れ込んだので私の足は変な方向に曲がってしまったがまあ、痛くないからよし。
バチバチと電灯が揺れ、電気が消えた。停電だ。香は揺れるなかで少し起き上がった

「…ホンマに危ないかもな」
「ほら、二人のトコ行かなて!」

腕で体をささえているので腕は使えないが間近の耳に言うとこちらを向かれた

「…ええって。あいつらにはちゃんと停電した時のための懐中電灯おいといたから。…まあ、なにより布団のなかやから気づくか…
立てるか、寧」
「立てるよ…」

香が立ち上がると手をさし伸ばされたので手を掴み、ゆっくりと立ち上がるとタオルがはらりと落ちた。…落ち、た。

「あ」
「…あ(香ちゃん見てもうたって顔しとる)」

自分も女だし、速攻でしゃがんでタオルを取った。手を掴んだまま見上げた。香がいつまでもこちらを見ているので目を合わせて。

「…5秒だけ見いひんで貰えるか」
「…寧」
「な、何や…人の裸見て楽しいか」
「お前…ホンットに胸平均やなぁ!」
「殴るでお前は!!」

香に顔を背けて貰いタオルを巻いて膝を洗ってから脱衣所に出た。外で待ってもらって下着とももの真ん中あたりまでの香のTシャツを着て肩にタオルをかけた

「…終わったかいな」
「うん。…見えへん」
「マジで?んなら手ぇつなご」
「あいよ」

出された手を掴んで暗闇をすすんだ。雨だから月はでらず、光がほとんどない。二人が布団に入っていると言う部屋にいくとすやすや眠ってしまっている2人。布団と姿勢をなおしてやり、懐中電灯を一本取った

「お?…どうしたんや」
「いや、戸締り。してへんやろ」
「ああ、なら俺も行くわ」
「ええよ、先寝てて」
「やからお前は」

香が変なふうに言葉を切るので顔をあげると髪をくしゃりとなでられた

「女やろーがって!」
「…せやけどなぁ」
「あとその格好でなんかきたら危ないやろ!?」
「平気やで」
「男だったらどうする?襲われるかもしれへんねんで!?」
「…大丈夫やって。そしたら音したら香ちゃん飛んできてくれるやん。せやから大丈夫やて」
「…お前なあ…はあ、適わんわぁ…」
「ふふ、なら行こ」

また手を繋いで玄関から全て鍵をしめて仕方ないのでポットでお茶をいれて二人で停電復旧を待った。ついうとうとすると頬をつままれた

「何ふんねん…」
「起きとけ。…もう地震はあらへんやろうけど…」
「…寝ようや…香ちゃん」
「…まあ、復旧して電気ついたら消していけばええか」
「うん…あの2人部屋の真ん中で寝とるし…他のとこ」
「おん、俺の部屋で寝よか」
「なんでもええからはよ…眠い」

私の手を引いて部屋に連れていくとさったさと布団をひいてくれた。1つひきおわってもう一つ出そうとしていたので「いいっしょ」と香を引っ張った
香は仕方ないとでも言うように布団に入ってきた。小さい声で朝風呂やな、と呟いた香に少し湿った髪を撫でられて、目を閉じた