「ただいまー」
「お帰り寧」
「おん、二万ももろうてしもた」
「そか。そんままおっとけ…買い物行こう」

ぷらぷらと手を繋いだまま揺らした。道の端を通っていくが理由は特にない。あえて言うなら道が荒れているからだ。修理の機械音はいまだに止まないが、田舎なため道が狭く、重機が通せないのだろう
スーパーで一通り買い物を終わらせ、本屋に寄った

「香ちゃん、なんや欲しいのあったん?」
「いや…小説ほしいなぁて」
「香ちゃん本好きやもんね」
「…お前に言われたかないわ」
「えぇ?なんでや」
「お前…読書量多くてテストで漢字問題間違えた事ないやんけ。しかも国語100点以外とったことないやろ」
「一回だけミニテストで…」
「一回だけやん…」
「それ言うなら香ちゃんだって理科いつも100点やん」
「理科は簡単やないかい」
「うち何時も60点代やで?」
「……そか…お互い極端やな」
「…せやね…あ、香ちゃんこれは?」
「映画化したやつか」

和気藹々と本を選び、さっさと家に帰った。昼ご飯も食べ終わるとまたのんびりし始めて、香は本を読み始めた。私は暇になったので机に突っ伏した。次第に眠くなってきたので上体を起こして目をこすった

「眠いなら布団行け」
「大丈夫…眠く…ない…」
「…ンッマにねむそうやな。布団敷いてやるから、ほら…行くで」

香は私を押して部屋に行き、布団を敷いてくれた。私を蹴るように寝転がすと部屋を去ろうとしたので足を掴んだらそのままこけた。

「おんまえ…!!」
「ごめん…でも、一緒寝よ?」
「今までの俺やったらええけど、今は爺さんが行方不明…すまん、もしもし」

香は電話に出て、驚いたと思えば泣きそうな顔をして通話を途切れさせた。香は私に抱きつくと精一杯の涙声で言った

「爺さんちゃんと戻ってきたてー…っ!ああ…よかった」
「ほんまか…」
「ようやっと眠れる…寝よ」

タオルケットに潜って窓からの涼しい風をいっぱい吸い込んだ。私は目を閉じて、ゆっくり意識をブラックアウトさせた

。。。

次に起きたのは夕方だった。ちょうど5時位。隣の香は未だすやすやとねているのでタオルケットをかけてやって起き上がった。手櫛で髪を整えてポニーテールにして晩飯の準備に取りかかった。たしか今日は魚だった。暇な時間に洗濯物を取り込んで、晩飯が出来上がった頃に香は目を瞬かせながらダイニングにきた

「…っこれ一人でやったん!?まさか…洗濯モンまで…!ごめん、明日明後日風呂掃除やるわ!今日も!」
「ええよ、香ちゃんぐっすりやったし。お爺さんが復帰して安心したねんな?気にすんな!」
「…そか…?とりあえず風呂掃除してくる」
「おん」

六月のカレンダーには私の名前と香の名前が交互に入れられている。お風呂当番とご飯当番。今月のカレンダーは紫陽花があってとても可愛らしい。香が戻ってきたので食卓に付き、手を合わせた

「どう?」
「んまい。…ありがとな、いっつも…」
「こっちの台詞や。…迷惑かけてごめんなあ」
「そっ、迷惑やなんて…!そんなことないで」
「…そう言うてくれると楽やわ」

香に洗い物を任せて先にお風呂に入らせてもらった。少し熱いお湯も今では慣れてしまった。体が冷えている時は別だが。
そういえば下着が危ない。二着くらいしかなかったのだが天気によりほとんどないのだ。買うしかないのか、と湯船に浸かった瞬間ドアが大きな音を立てて開いた

「なっ、香ちゃん…!?」
「…お前のとう、母さんから電話あってん。あい」

受話器を渡されたので湯船の中で通話ボタンを押した

「もしもし、お母さん?」
「ええ、こんばんは寧ちゃん」
「こんばんは。どうしたん?」
「いや、今更なんだけど服とか大丈夫かなって。香くんも」
「あー、香ちゃんは大丈夫。うちも香ちゃんの借りるくらいだから。ただ、うちの下着がさぁ… ね?」
「うーん、下着ねぇ…買うしかないかもね
あ、あと家の鍵ね、今合鍵作ってもらってるから明日には開くわよぉ」
「ホンマ?じゃあ下着取り行くわ。んじゃ、うん…」

ずっとこちらを見ていた香に受話器を返し、礼を言った。「何だった?」と聞かれたので素直に話すと頷かれた

「そん時にお前のと、母さんに話つけよか」
「何の?」
「結婚。…まずはお付き合いしとる所かな」
「お兄ちゃんが居なければええけどなぁ…まあ滅多に帰らへんしな」
「おん。…俺も入ろ」
「お風呂?」
「おん」
「……………………………ん?」

普通に脱ぎだしてちゃんと腰にタオルを巻いたと思えば隣に座った。タオル巻いててよかった。お湯はかさ増し、私の首下くらいになってしまった

「な、ならうちあが、っ!」
「もうちょいええんちゃう…?」

立ち上がろうとしたら腕を引っ張られて足の間に向かい合わせにされた。流石にこの歳でこれは恥ずかしい。少し「離して」と抵抗すると「なんでやねん」と冗談っぽく抱き寄せられた。ひぃっ。

「かっ香ちゃん…!こらアカンよ…」
「何がアカンねん…いつもやっとったや無いかい」
「それは小さい頃でしょ…」
「史さんとお前と俺で…史さんの膝乗ってたやん?」
「お兄ちゃんは随分前に隣に行ったし…!は、離して…ダメだよ」
「…何がダメなん?俺が嫌なんか…?触られるのが嫌?」
「そうやないけど…は、恥ずいやん…?」
「そないな事かいな。大丈夫や、二人きりやから」
「そっ…ふ、二人きりとかっ…言うなや…」
「あー…やっぱ寧は抱き心地ええわ」
「き、聞いてへん…もうっ」

自ら腕を回して抱き着くと、驚きから目が覚めた香が少し笑って「耳まで真っ赤」と耳を触った。耳弱いからやめてください。

「っ触んなや…香ちゃんの阿呆」
「なんやと彼氏に向かって…」
「ひっ!やから首ら辺触んなって!指冷たいしっ」
「そら悪かったなー」
「あっ、あがる、うちあがるから!」
「はいはい」