『お屋敷』に帰るのはいつ以来だろう。
去年の夏…いや春のことだからもう1年以上前になる。それにしたってたった1週間の滞在だったのだから、その時は帰ったという実感はない。

『お屋敷』とはもちろん私の自宅ではない。
ウチは至って普通の家庭で、今は父親の赴任先のアメリカが実家ということになるだろうか。
母の伯父にあたるひと…つまり私にとっての大おじ様にあたる方がその広大な屋敷の主である。

私は7歳から10歳までを大伯父様の元、その『お屋敷』で過ごした。元来病弱であった母の療養と父の海外赴任が重なり、まぁ諸事情により離れて暮らさなくてはならなかったのだ。その後は、療養のかいもあってすっかり元気になった母と共に父の住むアメリカに渡り、今に至るという訳である。

この夏のハイスクールの卒業を機に、次の春からは日本の大学に進む予定でいた。

が。
時期外れの今、どうしても日本に…『お屋敷』に行かねばならない理由があった。

とある使用人が旅立つと聞いたから…。
たった一言でいい。お礼が言いたい。
気がついたら卒業旅行用に貯めていたバイト代で買った成田行きのチケットを握りしめていた。