「逃げろ!出来るだけ遠くに!」

そう声を上げるのは
黒いコートを着て
フードをかぶっている
一人の男だった

「何故こんな事をする!?」

コートの男が声を上げた先には
同じコートを着た男がいた

「この力を試したい…ただ
それだけだよ…」

そう言って笑う男

「過ぎた力は魂を汚すか…
同じ唖人でありながら
何とも哀れな男よ…」

救世主と呼ばれるその男は
そう言って両手を開いた

バサァッ!

男の背中に六枚の
黒い翼が現れた

上空に飛び手を上げる男

「時の慟哭」


――――――


「男がそう言い、気付いた時には
唖人は消えていたそうじゃ

人々は理解出来ぬまま
唖人が消えた事に安堵した

世界を救ったその男の
姿を見たものは一人も
おらんそうじゃ…

そうして世界に再び平和が
戻ったが人々は考えた
また同じような事が起きたら?

争いが生んだ心は
人々の心を蝕み
そして望んでいた平和を
自らの手で壊して行ったのじゃ…

そして歴史は繰り返し
王国や今のシステムが
出来上がった…

そう自身の世界を守るための
システムがな…

世界を破壊せんとする
争いの中で人々は
自分の世界を守りたいと
思ってしまったのじゃ…
手を取り合い殺されるのなら
自身の力を伸ばし殺されるのを
防ごうとな…たとえそれで
他の人々が殺されようとも」

「昔話はわかった…
この世界が随分と醜い事もな」

キルは言って不機嫌
そうな顔をした

「それで…滅んだはずの唖人が
俺達って事か…」

クローズは国王に対し言った

「そうじゃ…わしはたまたま
おぬしら二人をこの
王国で見つけた…」

「ようは俺達唖人が
同じ殺戮を起こさないよう
監視するために側においたのか」

「護衛隊長なんて大層な
お役目つけてまでな」

二人はいきなり突き付けられた
真実に戸惑いを隠せない

「本当に悪いと思っている…
当然許されぬ事も…
じゃが聞いてくれ
キルを襲ったミラと
名乗った奴について」

国王は頭を下げた後
そう言った

「色々言いたい事はあるが
とりあえず聞きたいのは
そこだ…唖人が狙われる
理由も何となく分かるがな…」

キルは相変わらず不機嫌そうな
顔でそう言った