菊池は目立つほうではなくとも、男の俺からしてもまぎれもなく『カッコいい』ヤツだった。
整った容姿も、上位を常にキープしている成績も、そして全国でも通用するような短距離の才能も、誰もが手にできるものではない。
自分が優れていることを分かっていても驕(おご)ることのない努力家。
ポジティブ思考でマイペースな性格も付き合いやすい。
同じ陸上部員として、友人として、誇れるほどにいいヤツだと思う。
だから、菊池が目当てなんだな、と理解した瞬間、やっぱりな、という納得と同時に苦い想いが溢れてきた。
改めて見てみたら、菊池を見つめる女子生徒は男子の間で騒がれてもおかしくないほどに綺麗な容姿をしていた。
いや、綺麗というよりは愛らしい、と言った方がしっくりくる気がする。
垂れがちな大きな瞳が甘い印象を与える顔の造りと、華奢な身体。
真剣に菊池の走りを見つめる表情や仕草だけで、決して作ったものではない、自然に滲みだしてしまうような人の良さが感じられた。
……この学校じゃなきゃ、菊池とそういう関係になるチャンスが十分あっただろうに。
先程感じた苦い想いは、そういう意味だ。
ふわりとゆれた彼女の柔らかそうな髪。
なんとなく目が離せずにいると、ふいに彼女の表情にぱぁっ、と笑みが浮かんだ。
嬉しそうな表情に、一体どうしたんだと彼女の視線が向けられている俺の背後を振り返ると、もう一本100mのタイムを計っていた菊池が、ストップウォッチを持ったマネージャーとハイタッチをしているところだった。
どうやら菊池が自己ベストを更新したらしい。
彼女の嬉しそうな笑顔は、それを察してのものだったのか。
納得して、再び視線を戻した時だった。


