ガラリ、と教室の戸を開けて入ってきたポニーテールの女は、先生達の中ではまだまだ若い部類に属しており、又聞きの噂だと歳は30前半で、まだ独り身なのだそうだ。
担任の山本順子である。

「よーし。皆お早う。」
山本順子が教壇に上がった。
お早うございます、と教室中が口を揃えて、朝礼が始まった。


「連休はゆっくり楽しめた？」

いつもは皆静かに山本順子の話に耳を傾け、きちんと前を向いていた。が、しかし、今日は各々が、隣と話したり、後ろを向いたりして、教室中がざわめいている。

なぜならば。

山本順子教員の隣には、見慣れない制服を纏(まと)った、男の子。一人残らず、視線はその男の子に注がれていた。

背はそんなに高くはないけれど、端正な顔つきをしている。ｽﾗﾘとした体系で、なかなかモテそうな雰囲気であった。

山本順子は生徒の視線に気付いた様に、咳一つついて話し始める。
「うん、今日は転校生の紹介から。浅倉くん、自己紹介。」

「ども。東京から来ました。浅倉愁(しゅう)です。生まれてから小学校低学年まではこっちにいたんで、俺の事知ってる人いるかもしれません。とりあえず、宜しくお願いします。」
そう言うと、浅倉愁と名乗った男の子はペコリ、と頭を下げた。




「シュウ！」





早速、浅倉愁の知り合いと思われる人物が彼の名前を呼ぶ。
あろうことか、坂田麻衣子であった。