昨日―
数学の宿題を前に微睡(まどろ)みながらも手をを動かそうとしていた成海の携帯が突如鳴った。
一気に夢から現(うつつ)に引き戻される。
見れば“坂田麻衣子”の表示があった。

「もしもしー?」
しかし、成海の明るい声とは裏腹に、麻衣子とは到底思えない声色が、携帯から聞こえてきた。
「成海…」
「どーしたのよ?」
尋常では無い麻衣子の様子に、成海は思わず身を乗り出してしまう。
「やっぱり…」
「やっぱり?」
「やっぱり…シュウはもぅ…あの頃のシュウじゃ…ないよ…」

かすれる様な声で、麻衣子はそれだけ言うと、プッツリと電話が切れてしまい、その後何度も何度も麻衣子にかけたものの、繋がることはなかった。







「麻衣子…」
そっと、自分の携帯を見つめ、成海は呟く。
同時に、悲しみの様な、嫉妬の様な感情が、激しく成海の心を乱すのがはっきりとわかった。




―シュウと話してみなければ。