「そんな、あたしも彼氏欲しいよ?」

明美は唯の瞳を覗き込んだ。
「…好きな人でもいるわけ?」



「好きな人かぁー。好きな人ねー、」
いいかけて、口を閉じる。


「誰ー?」



「そっかぁ。明美にはまだ話してなかったなぁ。」
「何を!?」
「んー、好きな人とかそういう話。」


唯と明美は高校で出会ったばかり。
いくら一番の仲良しといっても、お互いの全ての事を知っているわけではなかった。

「聞いてないよっ!なんなのー?」



「ちゃんと、言うからー!」
唯の高らかな声と重なり、昼休みの終わりを告げるチャイムが校舎に響き渡る。






―あれから幾月の時が流れただろう。
出逢った時の事は、もう覚えていない。只、何時(いつ)もふと現れては、唯の心を乱していった、それでも。
唯は自分の物にしておきたかった。叶わぬ望みだと解っていても、手を繋ぐ夢を見、諦める事などできるはずもなかった。


それなのに。
時は唯の心の中からその想いだけを置き去りにし、流れてゆく。
何時(いつ)しか、別の誰かを愛する様になり、寂しさも満たされた。