心臓がドキリ、と鳴った。
張り詰めたような空気がより一層、心を昂(たか)ぶらせる。
どうしてか分からない。
只、顔が紅潮しているのは分かった。


「じゃ…しゅ、シュウで。」


その言葉と聞くと、何時もぶっきらぼうな浅倉愁が、初めて笑顔を見せた。





「でも、どうして実花、そのこと―」
「勘だよん。―って言いたいとこだけど。」
実花は笑う。
「唯、思いっきり“シュウ”って呼んでた。」
「あ…。」
思わず口に手を当てた。


甲高いホイッスルの音が鳴る。集合、というわけだ。
偶然にも、唯の隣にはシュウが座っていた。
「お前、走るの下手。」
目が合うや否や、第一声がそれである。
「シュウは、なんかスポーツやってんでしょ。」
「うん。サッカー。」
実花、警察官か探偵になれるかも、と密かに心の中で思った。


体育が終われば、昼休み。
だから、皆急いで着替えようと、更衣室はごったがえしになる。
「唯、実花、今日学食行きたいから、なるべく早くね!」
成海が声を掛けた。
「「はーい。」」
と声を合わせる。


唯と実花は呑気なものであった。
一人、涙を見せまいと堪える麻衣子が、血の滲むほど唇を噛み締めていたことなど知る由も無く。