ーーーガタタッ…
「あ…ぶねぇ…。大丈夫?」
…どうやら転倒はしていないらしいが…誰かに支えられたようだ。
「あぁ、すまな……げっ」
体を起こしてくれた奴の顔を見ると、失望と言うか、絶望した。
教室の群がりの元凶の転入生。
こいつに助けられるなんて…もはや屈辱といっても過言ではない…。
ていうか…。
「は、離せ…!」
私の腕を掴む奴の手を振り払った。
全校生徒の前?
そんなもの関係ない。
「失礼だなぁ、助けてあげたのに」
何事もなかったのようにヘラヘラと笑う転入生。
「助けてくれと頼んだ覚えはない」
奴の笑顔を見てると吐きそうで、私は顔をそらした。
すると余計ニヤニヤし出す。
「なんで顔そらすの?あ、惚れちゃった…とか?」
何をほざくかと思えば…。
「戯けんな。私は恋なんて……つっ!」
ーーーズキッ…
膝が痛む…。
さっき椅子で擦りむいたのだろう。
少し血が出て赤くなっていた。
まぁこんなもの気にする必要ないか。
「とにかく私は……う、わ!?」
ーーーヒョイッ
急に体が宙に浮いた…と思った。
が、違う。
いつの間にか私は転入生の肩に担がれて何処かへと向かっていた。
こいつが何を考えているか分からん…,
「おい!何するつもりだ!!降ろせ…!降ろせってば!」
背中を思いっきり叩くがこいつの体はビクともしない。
男とはこんなにも強いものだっただろうか…。
蓮は男でももう少しヒョロヒョロでお菓子ばっか食ってるけど太りもしなくて…って今はそんな事考えてる場合ではなくて!
余計な事を悶々と考えてるうちに、転入生は私を肩に乗せ、既に体育館を出ていた。
先生達は止めようともしない。
「お、降ろせ…」
「なんで?」
「いいから降ろせ!何故私を担ぐ必要があるのだ!?」
「怖いのー?」
「そ、そんな訳ないだろ!私はジェットコースター大好きだ!」
「とりあえず怪我してるから保健室行かなきゃでしょ。悪化したらダメだし」
その言葉に反応する私。
怪我に気付いていたのか。
「べ、別にお前には関係のないことだろう…」
「関係あるっての。あ、俺の名前は稲葉逢士な。お前は勅使河原だろ?」
担いでいた私を下ろすと、頭を撫でた。私の頭にすっぽりとはまるほどの手。
こうして見ると、結構背が高いんだな。
「稲葉…その名前、覚えておくからな」
人差し指を稲葉の目の前に突きつけた。
私のこと背の低さの所為で全然届いていないが…。
「逢士でいいよ。とりあえず保健室行くよ。歩ける?」
背をかがめ、私と同じ目線でそう言う稲葉…逢士。
「私をナメるな。一人でだって行ける」
本当はまだ少し痛むが…。
こいつの前で弱音なんか吐きたくない。
そんな意地張っても意味なんかないのは知っているけど。
優しくされるのが苦手だから。
子供扱いされるのも、嫌いだから。

