今日から新学期だというのに、このベンツと碓氷の態度の所為で、いつも通り正門を通る生徒の視線を感じる。

「行ってらっしゃいませ、お嬢」
「ええ、ありがとう碓氷」

ざわつく生徒を掻き分けて校内へ。
中には…。

「勅使河原さんだ…!」
「いつ見てもすげぇ…」
「綺麗ねぇ…」
「素敵な髪…」
「今日も可愛いなぁ」

そう呟く生徒もいる。
私の何がいいんだか。髪か、顔か。
16年生きてきたけど、一度もそんなものを誇ったことなどない。

次々と呟く生徒たちをよそに、私は自分の教室へと向かう。

「芽衣ー!おっはよーー!」
「あ、なっちゃん…」

「うぎゃっ!?」

ーーードサッ…

背後から足音と叫び声が聞こえたと思ったら……。
飛び込んできた奴は今だに私にしがみつき、背中にスリスリと頬を寄せる。

「ったぁ…。こら!さっさと離れなさい凪奈!!」

ぺしっとそいつの頭を軽く叩く。
叩かれたそいつはゆっくりと起き上がり、またおはようと私に言った。

「おはようはいいからとにかく退け。重いわ」

「ちぇ〜芽衣ちゃんったら冷たいんだからぁ」

「飽きないねぇ、なっちゃんもめーちゃんも」



言いながらゆっくり私の上から離れる榊 凪奈(サカキ ナギナ)と、お菓子を食べながら寝転ぶ私達を見下ろす深見 蓮(フカミ レン)。

二人とも私の幼馴染にして、私のクラスメイト。

凪奈の、小学校の頃からタックルしてくる癖は未だに治らないようだ。

そして蓮のお菓子好きも昔からそのまま変わらない。


こいつらが唯一私の親友であり、理解者でもある。

まぁ、ただのストーカーなのだが。

「また同じクラスだねぇ芽衣〜♪」

頭の上からお花がポンポン出てきてますよ、凪奈。
呆れるほど陽気な性格なのも変わらないな。

「そうだな。とりあえずよろしく。蓮、教室内にお菓子のクズ零すなよ?」

とか言ってるそばからもうポロポロと零してるのだが……。

「はーい、分かってるよ〜」

分かってないだろこいつ。
落ちてる、落ちてるから。

「芽衣は今日もいつも通りだね!毎朝なんだから学習しなきゃ〜」

私の腕に自分の腕を絡ませる凪奈。
暑苦しい…。

「お前も毎朝タックルするのそろそろやめたらどうなんだ…。私のストレスが溜まりに溜まる」

「えー!つれないなぁ」

そんな他愛もない話をしているうちに私達の新しい教室に着いた。

「さぁ、今日から2年生だ」



そう言ってドアを開けた。