『お兄さんはどうしてひとりなの?』

 花びらが散り始めた桜の木の下で、ひとりの少女が少年に話しかける。

 少年は一瞬驚いた顔をしたがすぐに取って付けたような笑顔をつくる。

『ぼくが近づくと皆嫌がるから、だからこうして遠くから見てるんだ』 

 少年の笑顔はどこか寂しげで、悲しそうだった。それは幼かった少女にもわかったようだった。

『なら、わたしとお話しようよ』 
 少女の言葉に目を丸くする少年。
『ダメだよ。ぼくと一緒にいたら君まで仲間外れにされちゃうよ』
『お兄さんは仲間外れなの?』
 少年はさらに悲しそいな顔する。目元は微かに潤んでいた。そんな顔を見られないようにと膝を抱え丸くなる。
 その時、少し託しあがった袴の裾から出ている細い脚があざだらけなのが少女の目に映る。
『ひどいケガ。痛くないの?』
 少女の言葉にギクリと反応すると、託しあがっている袴の裾をすぐに直す。
『なんで隠すの?ほっておいたらもっと痛くなっちゃうよ?』
 少女の表情が曇る。泣きそうにも見えた。
 少年にはなぜ少女がそんな顔をするのかがわからなかったようだ。
『どうして泣きそうなの?痛くないから。平気だから。だから泣かないで?』
 ほんとう?と、尋ねる少女の頭を優しく撫でながら頷く。少女は安心したように笑うと少年から離れていった。
『お兄さん!またお話しようね!』
 お互い姿が見えなくなるほど離れたところで少女が叫ぶ。
 少年は答えずただ少女に向かって手をふるのだった。