幸せはいつだってそこに

「カップルとは式場で待ち合わせてるから。場所は△駅から徒歩10分、××市⚪︎⚪︎⚪︎チェインクロス教会よ。あ、それ教会の周辺地図だから近くまで着いたら案内しなさい」
榛名はここまでを一気に言って、ホームのベンチに腰掛けた。
純也は受け取った地図にざっと目を通す。
△駅には純也も買い物で何回か訪れたことがあった。
確か駅から離れるほど落ち着いた住宅地が増えてくるところだ。
教会の場所を大まかに把握し地図を折りたたんで、スーツの内ポケットに入れたところで丁度携帯のバイブレーションが作動した。
メールの着信を確認すると、それは早苗からだった。
ーー今ね、高校のときの同級生のさっちゃんとお買い物してるんだ。お土産買って帰るから楽しみにしててね。お仕事頑張れ♪
簡潔ではあったが、そのメールは確かに純也をリラックスさせた。
静かに微笑んで携帯を再びポケットに戻すと、榛名がにやりと笑いながら口を開いた。
「今のメール、奥さんからでしょ?」
「はい…、なんでわかったんですか?」
「あんたのその間抜け面見てりゃ誰だってわかるわよ。今すごい幸せですって顔してたもん」
純也はそんなに間抜けに見えるほど微笑んでいたのかと少し焦りながら
「その通り、幸せです」
と返した。
「いいわね。仲良し夫婦って憧れてんのよ、あたし。憧れは憧れのままだけどね……、あ、電車来たわよ!」
榛名は曖昧なところで話を切り、到着した電車に急いで乗車した。
純也は不思議に思った。
今の話の最中、榛名の様子がいつもと違って見えたのだ。
どこか悲しいような、でもしっかり未来を見据えているような表情だった。
電車に揺られながら、榛名の話をもう少し聞いてみたいと思った。
しかし純也は聞かなかった。
あの表情から察するに、あまり話したくないような話なのだろうということが少なからず読み取れたからだ。
お互い駅まで無言のままただ通り過ぎてゆく景色を眺めていた。