幸せはいつだってそこに

今日はよく働いた。
そう思いながら純也は沈み始める太陽を仰いだ。
書類の印刷のためにコピー用紙を地下の倉庫から待ってこさせられ、インクが切れたため近くの電化製品屋まで自転車を爆走させ、昼になればお腹空いたとダダをこねられコンビニへ。
思い返せばほとんどが雑用的仕事だったが、疲れたことに変わりはなかった。
自宅の手前に来たところで、ほのかにカレーの香りが純也の鼻をくすぐった。
「今日はカレーか」
そう小さく呟きドアを開ける。
「早苗、ただいま」
「純君おかえりなさい!今日はカレーだよっ」
早苗がニコニコしながら、こちらへ向かってくる。
ただいまと言えば、おかえりなさいと返ってくる。
自宅に帰れば暖かい夕食が用意されている。
これ以上の幸せがあるのだろうか。
純也は心からそう思った。
「カレーか!丁度食べたかったんだよ」
「やっぱり?純君は疲れてる時いつもカレーを食べたがるからね。大きな仕事が入ったって聞いて、今日は疲れて帰ってくるんじゃないかなって思ったんだ」
「大当たりだったな」
2人で笑いながら家の中に入った。
リビングに置かれたテーブルの上にはすでに大盛りのカレーと一般的サイズのカレーが並べられ、湯気を上げていた。
「おかわりもたくさんあるからいっぱい食べてね」
向かい合わせの位置に腰を下ろした早苗が微笑んだ。
「おうっ!いただきます」
銀のスプーンを手に取り、カレーを一口口に運ぶ。
「やっぱ早苗のカレーは世界一だな」
純也の一言に早苗は頬を染めながら自分もカレーを食べ始める。
早苗のカレーは本当にうまい。
おふくろの味とは少し違うような心が癒されるような味がするのだ。
結婚してから変わることのないこの味が、純也は大好きだった。