( 幸弘のマンション )

 ある日弘の部屋で自分の荷物を取ろうとした幸弘は、

弘の荷物をひっくり返してしまい、その中から遥の昔の日記を見つける。


( あれが来ない・・・まさか、あの一度で・・・・・・)

( 今日も来ない・・・明日、検査薬で検査してみよう・・・不安だけれどはっきりさせ なきゃ・・・)

( 妊娠・・・していた・・・間違いじゃないのか・・・明日病院へ行こうと思う。)

( 間違いなく妊娠していた。このおなかの中に赤ちゃんがいるなんて不思議な気分。

あたしはこの子を産む。

絶対にそれだけは間違いない。

堕ろそうなんて全く思いつかないのが自分ながら不思議。

あたしはこの子と生きて行く。)

( 今日初めて仁美だけにこの事を話した。

本当に真剣に堕ろすように勧められた。

やっぱり親友だ・・・普通これだけ産みたがってたら「産みなよ。」って言うよね。

彼女はシングルマザーが、認知されていない子供を育てる事がどれだけ大変なのかを詳し

く教えてくれた。

もちろん幸弘君は高校生。それも一年生。

とても子供を認知してなんて言えない。

あたしはおなかのこの子も愛してるけど、幸弘君も愛してる。

こうしている今だって幸弘君に逢いたい・・・本当に逢いたい・・・

でも彼にこの事を伝えれば、彼の事だから高校中退して働くって言うだろうと思う。

彼には普通の青春を送らせてあげたい。

人生で一番輝く楽しい時期をあたしのわがままで台無しには出来ない・・・

将来彼が社会人になった時に伝えようと思う。

今は、幸弘君には何も言わずに消えよう。

「なんて女なんだ!」って思われるだろうけど、

そうでないとあたしは彼と離れられない・・・

明日は引っ越しで明後日は幸弘君の合格発表・・・

合格してますように!

・・・愛してるよ、幸弘・・・

あぁ、逢いたいなぁ・・・)

日記はその後も続きその最後に、幸弘が結婚するからもう絶対に会えないというくだりが

有る。

それを読み幸弘はけげんな顔になる。