「澤田、なんなんだ。あいつ機嫌悪くね?」
五条が去った方を眺めながら立松が眉を寄せた。
私も気になる。
立松と一緒になって美景ちゃんをじーっと穴があくほど見ていると、溜め息を吐きながらも教えてくれた。
「あんまり話したくないんだけど……」
美景ちゃんは私に「本当にいいの?全部言うよ?」と言ってきた。
「私はよく分からないけど」
「雪ちゃんはあんまり聞かないほうが……」
「なんで?」
「えーと、精神的ダメージが……」
精神的ダメージ?
そう聞いて首を傾げるも、ピンときた。
美景ちゃんが言いにくそうにしているのは、恐らく私の悪口だからか。
精神的ダメージとはそういうことだろう。
「いいよ、別に。ちょっとのことでへこんだりしないから」
「う、うーん」
「……今まで何回そういう目に遭ったと思ってんの。今更よ」
悪口程度のことなら、何回かある。
頭良かったり、人気者の五条と絡んでいたりすると必然的に妬みで。
それを苦と感じたことはないし、言いたい奴らには言わせておけばいい。
「ゆ、雪ちゃん大人」
「そ?」
「澤田、早く言えって」
立松にも急かされ、美景ちゃんは飛び込み台がある方の壁に寄りかかった。
あ、ここは影があるから長話しても日焼けはあんまりしそうにないな。
「夏休み初日のことなんだけどね」
そう言って、美景ちゃん視点での話が始まった。