「おーい、雪女。昨日の宿題やったか?」
クラスメートの男の子が登校するなり声をかけてきた。
私は読んでいた本から目を離し、その男子に振り向く。
「やったけど」
「じゃあ貸して?」
「自分でやれば?」
「そんなこと言わずにさー」
席に座らず、ランドセルを机に置いて、中からノートを取り出して、見せてくれ見せてくれとせがんでくる。
彼が持っているノートは算数。
つまり算数のノートを写させてくれと。
なんと図々しい。
「なんだあ?お前雪女に頼んでんのか?」
「虎...。どうせ虎もやってないんだろ」
「俺を馬鹿にするなよ。宿題くらいできるっての」
そこへ見下すように現れてきたのは、五条 虎之助。あだ名は”虎”。
このクラスの中心的存在。
髪はツンツンとしていて、寝癖じゃなくクセっ毛のようだ。
それに割かし可愛い顔。
高校生になるとイケメンと思われる。
服はいつも活発男子を連想させるもので、生意気だけど憎めないという性格故か、同学年だけでなく下級生からも上級生からも人気がある。
顔はかっこいいと評判だが、頭は空っぽの運動マン。
私のことを“雪女”と呼び始めたのもこいつが最初。
おかげで皆から雪女と呼ばれるようになった。
別に嫌じゃないけど。
その由来とは、そばかすができるくらいに顔が白い、髪が比較的長い、誕生日が冬、名前に冬がある。というなんともまあ簡単な理由。
「じゃあ俺の見せてやるよ」
「えー、虎がやったんだろー?それあってんのか?」
「当たり前だ」
「本当かよー。おい雪女、虎の見てくれ」
そう言って手渡された五条のノート。
小学4年生の算数なんて簡単だし、今回の範囲だってそう難しくなかったし。
五条のノートをペラペラと捲って答えを確かめる。
「どうだ?」
「あってるだろ!」
自信満々の五条に私は鼻で笑った。
「字が汚くて読めないし。それに間違ってる」
「ほれみろ!」
「なんだと!」
誇らしげなクラスメートに、悔しそうな五条。
これが日常。