山田は私にお礼を言った後、五条の横を通って保健室から出て行った。
今まで以上に気まずい沈黙が走る。
先に口を開いたのは五条だった。
「なんであいつといたんだ」
先程よりか表情がいつも通りでほっとした。
私は座ったまま、五条を見上げる。
「怪我したみたいだったから」
「ふうん…もう20分経ったんだけど」
「え」
もうそんなに経ったのか。
壁に取り付けられているとけいを見ると、確かに私がここに来た時間から20分が経過していた。
「ごめん、気付かなかった」
「…なんであいつにキスされてたわけ?」
目を細める五条に、ぞくっとする。
本当に、小学生?
小学生が、こんな目をするの?
「やっ、その…分からないけど」
「なんで?」
「な、んでって…」
違う、違う。
こんな五条、私は知らない。
無意識に服を握る。
ごくっと唾を飲みこむ。
まるで私が罪人のようだ。
本当のことを吐けと、怖い顔の刑事に尋問される罪人。
けれど五条の顔は怖くない。
ただ、そのオーラと雰囲気と声のトーン。
ビシバシと伝わるなにかにより、私は冷房がきいているこの部屋でも、変な汗が出る。
「はあ……」
びくっ。
五条が吐いた溜息に、肩が上がる。
その、全て諦めているような瞳。
「もういい」
興味が失せたというような声のトーン。
え…?
それだけ言って、五条は保健室を去った。
なに、もういいって。
もういいって、なにが?なにが?
私が?
私はもういいの?
ガツンと大きな硬い塊に、頭を殴られた気分だった。