虎と雪女

「あれれれれー?虎くうん、バスケやるんじゃなかったのかな??」

「....別に俺の勝手だろ」




まあた始まったよ、と美影ちゃんが呆れた様子で眺めている。
美景ちゃんは私の斜め前、つまり教卓の目の前だ。



「だって虎、絶対バスケやりてえ!って昨日言ってたじゃねえか」

「気が変わったんだよ」

「うっそだあ!聞いたよな澤田!!」




澤田とは美景ちゃんの苗字。

立松と美景は結構仲が良い。去年も同じクラスとかで。


私は立松から視線をはずして美景ちゃんのほうを向くと、目が合った。


するとあろうことか美影ちゃんの手が私の頭に乗っかった。


私の短い髪がゆさゆさと揺れる。


美影ちゃんはよしよしと頭を撫でてにやりと笑った。




「冬美はなににするの?」




にこっと笑っているけどどこか悪魔の尻尾が生えてる気がする。


それに冬美……?
美影ちゃんって、私のこと冬美って呼んでたっけ?


確か“雪ちゃん”と呼んでいたような....。うん、そうだ。女子は皆そう呼んでいる。

雪女にちなんで。

美影ちゃんのほうを見ながらクエスチョンマーク。



「な、なんだよ冬美って」

「おんやー?虎、なに反応してんのかな?」

「澤田.....てめっ」

「ふっふーん。悔しいか、悔しいか」



ギリッと歯軋りするような音が聞こえそうなくらい五条は歯を食いしばっていた。

今にも美景ちゃんを殴りそうな雰囲気が、醸し出ている。

その顔は親の敵討ちでもするかのように歪んでいた。



「ストップ!!虎、そんな怖い顔しないの。女子が怖がってる!」

「だって先生!あいつが雪女の名前を!!」

「まあまあ、あんまり墓穴掘らないの。澤田さんも挑発しない」



うっす、と美影ちゃんは言って私の頭から手を退けた。



先生は一度五条のほうを向いてから私に話しかけてきた。



「佐々原さんは種目何に出るの?」



え、私限定で聞くの?