あの声で名前を呼ばれて心臓を掴まれない人なんて、絶対いない。
きっと誰にも気付かれていないだけでいるに違いない。
そう切々と語る私に絢子は眉をしかめる。
「いやいや。二人も三人もいたら嫌でしょ。っていうか一人でも嫌でしょ?」
「それは…嫌、だけど…」
確かにいたらいたで嫌だ。すっごい嫌だ。
物凄い勢いで落ち込む。泣くかもしれない。
そうなる自分が簡単に予想できてしまうから嫌なのだ。
好きな人のことを知るのは。
どうしたって怖い。
知りたくないことまで知ってしまうのが怖くて仕方ない。
ことに恋愛に関しては。
胸の奥が詰まって、呼吸すら奪われてしまうから。
それは彼の姿を見ているときの気持ちに似ている。
でも、その痛みは決して甘くはない。


