そこに彼のトレードマークの笑顔はない。
俺の掛けた言葉に彼は目を真ん丸く剥き出し、右手を俺の方へと突き出してきた。
「ブラックレター!届いたんですよ、今週二通目が!」
そして息継ぎせずにそう言いきった彼。神崎の右手に握られた黒い封筒。
それにドキンと心臓が音を立てる。
それが何か期待の音だということを俺は知っていた。
今まで週に二回、彼女から手紙を受け取ったことはない。
今週の分はもう既に受け取っている。
その事実が俺にある期待をさせるのだ。
「…貸して」
そう言って神崎に手を伸ばす。
他の誰かか。それとも確かに彼女からなのか。
封筒が黒いだけでは必ずしもあのブラックレターだとは言えない。


