ブラックレター~高嶺の花に恋します~





何より、集団の中に入ることが怖い。

人に囲まれることが、怖い。


一年たった今でも私の不安症や恐怖症は回復の兆しを見せていなかった。

一人で出掛けられるのは本当に身近なところだけだ。


週の大半を部屋の中で過ごしているし、電車に乗るのも人に会うのもお薬と覚悟が必要で。


相変わらず突然の外出はなかなか出来ないでいる。


それでも絢子や家族の支えのもと、少しずつ外の世界に触れるようにはしているけれど。

まだまだ普通の生活とまではいかなかったりする。


それにもう一つ。

試写会に行きたくない理由があった。


正直そっちのほうが大きな理由だ。




「見たく、ないもん…」




そう小さく小さく呟いた言葉。

それは、消えることなく絢子の耳に届く。