「柴野さん、ずるいですよ……そんな顔するなんて」


「奏、僕はものすごく弱い人間なんだよ……だって、にこにこしてる人に厳しい事はいえないだろう? といっても、今はうまく笑えてるかわからないけどね。僕は自分が傷つくことが怖い、だったらいつも笑っていればいい。そんな鎧を着てるんだ……幻滅しただろう?」


 そんな投げやりの柴野の言葉に、奏はふと思い出した。高校生の時の柴野はネクラで内気な性格だったと言っていた。


 柴野は外見は変わっても、中身はまったく変わっていなかったのだ。


「奏、最後に一度だけ……君のこと抱きしめたい。奏の温もりを、覚えていたいんだ。頼むよ」


 にこにことしていた柴野の表情に余裕がなくなり、かすれた声で柴野が訴える。徐に柴野の手が伸びて、近づいて来る度に、奏の中でじわじわと恐怖が沸き起こった。