嫌な予感はしていた。



玄関のドアを開けた瞬間、部屋から流れてくる暖かい空気。この部屋には馴染みのない、嗅いだことのない匂いが混じってる。



いつもの、部屋の匂いとは違う。



恐る恐る視線を落としたら、足元には隆太の靴と寄り添うエナメルのパンプス。淡いピンク色が薄暗い玄関の土間に、やわらかな明かりを灯している。



私のものではないパンプス。
あるはずのない隆太の靴。



部屋に上がるのに、何のためらいもなかった。



しんとした部屋の中、私の胸の鼓動だけが耳障りなほど響いてくる気がした。



アイボリーの遮光カーテン隙間から差し込む朝の陽射しが、部屋を怪しく浮かび上がらせる。ぼんやりと浮かんだベッドの上には丸く盛り上がった布団。



隆太の黒い髪が覗いている。
その隣りには……



迷いなどない。
私は、思いきり布団を引き剥がした。