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「まいど!」




必要な材料はなんとか取り揃え終えて私は一安心する。こんな朝早くに店を開けてくれた方に感謝しなければと踵を返す。

もうだいぶ時間が経ってしまったようで、
人通りも増えてきた。
早く帰ろうと少し速度をあげる。




「何事もありませんように」




そう呪文のようにブツブツ唱えていた矢先。




「ふざけんじゃねぇぞ!!!!」




「?!」




けたたましい物音と大きな声と共に目の前に一人の少年が転がってきた。
一瞬思考が停止してその場に佇む。

少年は吹っ飛んできた宿の入り口を睨みつける。私もそこに視線を移せば大柄な男が現れた。




「このワシに楯突こうなんざ百年早いわ!小僧!」




大声で怒鳴り散らしているところを見ると、この少年といざこざがあったことは一目瞭然。
刀を差しているとなれば浪士なのだろうかと私の顔は青ざめた。




「俺は少し酒くせえと言っただけじゃねえか!いい歳して暴れてんなよな!」




周囲にいる人間は刀を差しているというだけで触らぬ神に祟りなしとでも言ったところか近づこうとしない。
しかし少年はむしろ食ってかかっていった。




「手前の仕事はなんだ?!
俺達、お客様のお世話だろうが!!」




「おっさんが絡むから女中が困ってた
俺達は奴隷じゃねんだ、なんでも言うこと聞くと思ったら大間違いなんだよ」




この少年は私と同様この宿の奉公をしているらしい。
話を聞いていれば浪士が酔っ払って絡んだ女中をこの少年が庇ったのが気に食わなかったらしい。

なんとも大人気ない話だ。




私は青ざめた顔を引っ込ませ、少年と浪士の間に立った。周りからは「正気じゃない」などと言う声が飛び交う。




「ちょっとあなた、この少年に非はありませんよ」




「あァ?!うるせぇな女はひっこんでろ!」




部外者の介入についにブチギレたのか、浪士は抜刀した。
私の後ろの少年が慌てて私の袖を引く。




「おい!あんたを傷つける訳にはいかねえ!さがってろ!」




しかし出てきてしまった以上私の意地が発動してしまい、下がる気にはなれず聞かなかったことにした。




「大丈夫よ、あなたは間違ってないもの」




まるで自分に言い聞かせるようにつぶやくと荷物を少年に預けて浪士を睨みつける。




「このアマッ!!!!」




刀が振り下ろされる。
誰もが目を逸らし、私自身も目をつむった。




――死ぬ!!




キィン!




しかし訪れるはずの痛みはなく不思議に思い目を開ければ目の前には誰かが立っていた。