――――――――



――――



――




バタバタと雨が屋根に叩きつけられる。
その音が雨脚の強さを教えてくれる。




ここ数日のうだるような暑さが一変して、今日は大雨になった。
少し涼しくなったのは嬉しいが、この雨でお客様が一人も来ない状態にある。




せめて旅人でも来てくれないだろうか。




いつもの私なら呑気にこんな事を考えていたかもしれない。
しかし、今の私にはそんな余裕はなかった。




私を心配してくださっているからこその芹沢さんの昨日の行動。だからこそあの後追いかけることもできなかったし、今も足が動かない。




私はただ呆然と投げつけられた巾着を眺めていた。




中身は何やら固く芹沢さんの私物ではないのかと思うと開けるのが少し怖い。




「はあ....」




考えてはため息をつき、また考えてはため息をつく。そんなことを繰り返しているうちに時刻は昼を過ぎた頃になっていた。




そんな私を見かねた主人が奥から出てきた。




「伊勢ちゃん、どうしたんだい?」




「あっ、ご、めんなさ....い」




お客様が居ないとはいえ仕事中だ。
ため息ばかりつく私を叱りに来たのだと思い、頭を下げれば小さな紙を渡された。




「いいんだよ、気にすることじゃあない
こんな雨の日に悪いんだが買い出しに行ってくれるかい?」




「構いませんよ、お客様も来なくて体を動かしたいと思ったんです」




こんな雨の中の散歩もまた楽しいかと思い、引き受けようと立ち上がれば、巾着を落としてしまった。




「おや....」




「ど、どうしよう....壊れてないよね....」




慌てて拾えば主人が何やら神妙な顔で巾着を覗き込んでくる。不思議に思っていれば、なにか思い出したように声をあげた。




「ああ!こりゃあ、いつも来るお侍さんの....!道理で見たことあると思ったよ」




「え....?」




私の知る限りでは芹沢さんがここに来たのは昨日限り。お客様として甘味を食べに来れば自然と顔を合わせるし、私が気付かない訳が無い。

意味が分からず首を傾げれば主人が説明してくれた。




「いや、たまに私が店先に顔を出すとね
いっつも笠を深く被ったお侍さんが同じ時間、同じ場所に立ってるんだよ

その巾着を持ってね」




「いつも....?」




「ああ、ちょうど....伊勢ちゃんが壬生浪士組の屯所に行かなくなってからかねぇ」




「私が....壬生浪士組の屯所に行かなくなってから....」




「その巾着はもらったものなんだろう?
大切にしてたみたいだから贈り物かとは思ってたけれど....まさか伊勢ちゃんにだったとはねえ