「....放せ、何処で誰が見ているか分からんぞ」




驚いたような困ったようなその声に頬が緩む。私はさらにきつく芹沢さんを抱きしめた。




「構いません」




「死ぬかもしれんのだぞ」




「死にません」




「わしは....小娘、お前に死んで欲しくないと思っている」




肩をつかまれ引き剥がされてしまう。
手のひらに込められた力が私をどれほど心配してくださっているのか伝えてきて、苦しくなる。




「死ぬということにはとても恐怖を感じます」




「............」




「けれど....私は芹沢さんのためならこの命惜しくはありません」




「何を....」




「....私は芹沢さんを父のように慕っています」




そうニッコリと告げれば芹沢さんは目を大きく見開いた。慕われていたとしても友人の域だと考えていたのだろうか。

父と言う言葉に戸惑いを隠せない様子だった。




「わしを....父のように....か」




「傍に居たいのです!
私は芹沢さんともっとたくさんお話していたい!」




子供のような我が儘だということは承知の上だ。しかし後になって後悔するなど死んでも御免こうむる。

そんな後悔するのなら盾にでもなりたい。




しばらく見つめあっていれば、芹沢さんはまた笠を深く被ると私を突き飛ばした。




「ひゃっ」




鈍い音と共に地面に叩きつけられる。
容赦のない行為に唖然となっていれば小さな巾着を投げつけられた。

見覚えのないそれに不思議がっていれば芹沢さんが口を開く。




「貴様のような者、子などと思った事は一度もない

目障りだ」




先ほどとは一転して冷たくなった態度に芹沢さんは私から本当に離れたいのだと悟った。




――嘘をついている。




そうだと頭に叩き込んでも涙がこぼれ落ちる。言葉とは刃物みたいなものだ。
とても恐ろしい。簡単に心を傷つける。




芹沢さんは踵を返すとその場から去っていってしまった。



















これが、芹沢さんと言葉を交わした最後だった。