「いらっしゃいませ!」




まだ少し取り払われぬ憂鬱を忘れるかのように仕事に取り組む。今日はそこまでお客様は多くないのだがとりあえず動き回っていた。

その理由は、またもう一つあるのだが。




「団子と茶二つずつですね」

「お待たせしました」

「ありがとうございました!」




さて、どうしようか。
できるだけある方向を見ないように背を向けて移動する。視線が痛いが気にしない気にしない。




「伊勢ちゃん、ほれお得意様のできたよ」




そう言って手渡された甘味に顔が引きつりつつも大事なお客様の甘味だ。踵を返して席へ向かった。




「...........」




「お待たせしました、団子です....」




み、見てる見てる。というか睨まれてる。
一瞬で目を逸らせばその人は不機嫌そうに口を尖らせる。困り果てて向かいの席に助けを求めれば苦笑い。




私は諦めて声をかけた。




「....沖田さん、あまり睨まないでいただけますか」




私を睨む人、沖田さんは指摘しても尚態度を改めない。私は何かしただろうか、二日前にここで会ったときはご機嫌で甘味をつついていたような気がするのだが。




「睨んでないよ、別に」




ニコリと笑顔を貼り付けてそう答えてはいるが、随分と声にイラつきが感じられる。




「嘘ですよね....斎藤さんも苦笑いしてないで何か言ってください!」




理不尽な態度に泣きそうになればさすがに斎藤さんも止めに入る気になったようだ。




「総司、怯えている」




「だって腹が立つんだもん」




ようやく視線は甘味に移り、一安心する。
思い返してみたが思い当たるところは何もない。




昨日の芹沢さんの件に引き続きどうしてこうなるのかと項垂れていれば
沖田さんは突拍子もないことを聞いてきた。




「伊勢ちゃんってさぁ....芹沢さんのこと好きなの?」




「?」




「す、き、な、の?」




何故ここでそういう話になるのか。
まったく考えている事が分からないが答えは決まっていた。




「好きですよ」