「....泣いてません」




今まで会っていた人に突き放されて泣くだなんてよく考えたら子供みたいなことだ。
フイ、とそっぽを向けばため息をつかれる。




「芹沢さんに何か言われたのか」




「....い、言われてません」




なぜ今噛んでしまうんだ私の口!
いたたまれなくなって私は立ち上がるとその場を去ろうとした。

が、斎藤さんに腕を掴まれ強い力で引き寄せられる。




「ひゃっ」




しかし体勢を崩した体は受け止められることもなくべしゃりと地面に倒れ込んだ。
片手がなんとか反応して顔面は防いだが額が地面についてなんとも変な格好だ。




真っ赤な顔をして斎藤さんを睨みつける。




「何するんですか!!」





「すまない」




今日は踏んだり蹴ったりの日だ。
額から地面に倒れ込むだなんてなかなか無いことだろう。差し出された手を無視して土埃を払う。




「俺は女の考えたいることがよく分からない、だから教えてくれ

泣いていた理由はなんだ?」




「....目にゴミが入りました」




「....」




「....」




適当に答えを返せば今度は斎藤さんが私を睨みつける。私など放っておいて仕事に戻ればいいのに何故ここまで私が涙した理由にこだわるのか。

言わなければ先程のようにまた地面にうちつけられるかもしれない。諦めて理由を口にした。




「....二度と来るなと、言われたんです」




「芹沢さんがあんたにか」




「私にはあんなに冷たい視線を向けられるような事をした覚えがありません

....も、わか....んな....く....て」




芹沢さんの表情を思い出してまた涙が溢れる。親に捨てられた気分だ、理由も教えてもらえないのがなお辛い。




そう言えば斎藤さんは私の頭を撫で始めた。




「さ、斎藤さん?」




普段撫でられることがないためか顔が真っ赤に染め上がり耳まで熱い。おおかた私を慰めてくれているのだろうが恥ずかしいことこの上ない。




頭に置かれていた手が肩に移されたかと思うと斎藤さんの顔が私の耳元に急接近した。
驚きすぎて体が硬直してしまう。




「今、壬生浪士組は二つに割れている」




ボソリとつぶやかれたその言葉にドキリと心の臓がはねる。




「二つに....?」




「ああ、芹沢さん派と近藤さん派の二つだ
暗殺を企てる話も出てきている」




「暗殺....」




そんな話私にしていいのだろか、
あまり触れ回ってはならないことだから耳元で話しているのだろう。

芹沢さんと近藤さん、私にとってはどちらもよい人だ。困惑する。




「芹沢さんは、あんたを巻き込まないようにと突き放したのではないのだろうか」




「私を?何故?」




「あんたは芹沢さんに甘味をいつも運ぶだろう?そこに毒を仕込んで
あんたの仕業にしようとする奴も居るかもしれないということだ」




ではこれは芹沢さんの優しさだというのか。
私が芹沢さんの命を危ぶめるかもしれないということなのか。




「わ、私そんなことしません!」




青ざめた顔で首を横に振る。