「伊勢ちゃん、壬生浪士組に行くのかい?」




定休日の朝、私が支度をしていれば甘味処の主人が声をかけてきた。質問の意図が分からず目を細めれば少し気まずそうな顔をする主人。




「壬生浪士組で何かあったのですか?」




事件でもあったのか?
そうなれば自分が行くわけには行かない。
しかし主人は首を横に振った。




「いいや、正確にはこれから起こるかもしれんのでね....あそこに行くのは控えた方がいいと思ってねぇ」




「....」




もしかしたら、前回行った時の新見さんの様子と何か関係あるのだろうか。

私は甘味を包んだ風呂敷を持つと主人に向き直った。




「....もし何かあれば、すぐに会うのはやめます....ですから今はまだ行ってもよろしいですか?」




芹沢さんは厳しいお方だけれど、私とは違う思想を持っていて面白いお方でもある。
ここまで執着するのはどこかに父親の影をみているのかもしれない。




今はただ会って話していたい。




私の考えが伝わったのか主人は困ったように笑った。




「やっぱり伊勢ちゃんはまだ若いのかねぇ」




「?どういう意味ですか?」




「親が恋しいってことだよ」




風呂敷を持つ手に自然と力が入る。
主人は何でもお見通しらしい。