壬生狼の花











「こんにちは」




「こんにちは」





その後も私は暇をもらう度に壬生浪士組の屯所に足を運んでいた。もちろん、甘味を携えることも忘れずに。

最近では不審がられていた平隊士の方々も挨拶くらいは返してくれるようになった。




ただ一人を除いては。




「また来たのか、てめぇ」




「ひゃっ」




芹沢さんの部屋へ向かっている途中、突然後ろから声をかけられて私は驚く。
芹沢さんとはまた違う威圧感のある声、その声の主の見当はついているため振り向くのを躊躇う。




しかしいつまでも背を向けていれば斬られかねないので恐る恐る振り返った。




――ああ、今日もまた私を気に入らないという目をしてる。




何度かこういうことがあったが未だ慣れない。
最近ようやく名前を知った土方さんは私を見下ろしていた。




「聞いてんのか」




きっと強ばった顔でもしていたのだろう、歪められた目の前の顔に頭が自然と下がる。




「あの....ご迷惑....なんでしょうか、私」




「ああ、目障りだ」




この人は本音も建前もクソもないのだろうか、サラッと答えた言葉に私は項垂れた。




「ここは男所帯だ、てめぇのような女が来ると風紀が乱れるんだよ」




「はあ....」




確かにここには女隊士がいるわけでもないし、女中だっていない。
きっと皆厳しく己を律しているのだろう。

しかし私には風紀を乱すほどの色気など持ち合わせていないのでその件に関しては信じられなかった。




しばらく沈黙が続く。




いい加減耐えられず、口を開こうとした時満面の笑みを浮かべた人がやってきた。




「おお!トシ!その子が甘味処の奉公娘か!」




その人の登場に土方さんは盛大なため息をつく。一言で表すなら能天気、だろうか。
この険悪な状況で声をかけてきたことにむしろ尊敬する。




「伊勢と申します」




土方さんを愛称で呼ぶのだからきっと偉い方なのかもしれない。私は挨拶した。