どすっと背中に強い衝撃を感じ、反射的に振り返った。


「いやーごめんごめん、待ったー?」


俺の背中に抱きつくように腕を回しているのはー…


茶髪頭に妙にへらへらしている男だった。


(こいつ…知ってる…)


月下風也といつも一緒にいるやつで、確か早乙女瞬とかいう名前だった気がする。


持ち前のルックスと、チャラさで、そのモテっぷりは月下風也に負けず劣らず。

現に今、目の前のこの人(さすがに先輩なのでこいつ呼ばわりはためらわれた)が現れたことで、学食中の女子からの視線をびしびし感じる。


…でも、そんな奴が何で俺に抱きついてんの?


てか、待った?って何?


「先輩、誰も待ってないんですけど?」


俺は静かに目の前の先輩に言った。


少し強い口調で。


てっきり諦めてどっか行くと思ったのに。


「えー?つれないなぁ。しかも先輩なんて、他人行儀だしぃ?瞬って呼んでよ♪」


…だって本当に他人なんだからどうしょうもないじゃん。


そう言おうかとも思ったが、止めた。


なんかこのテンション、日向に似てる。


嫌味が全く通じなくて、かつ、全てにおいて何でもかんでも恐ろしいほどにポジティブに変換する奴。


だとしたら言うだけ無駄だ。


何を言ったって、結果的にこっちが疲労することになる。


それはこの16年間、日向を見ていてつくづくそう思う。