「…え?」


風也君が顔を上げた。


真っ直ぐに絡み合う視線。

少し恥ずかしかったけど私は目をそらさなかった。


「うーん、うまく言えないけど。風也君が猫かぶって違う“風也君”になるでしょ?でもそしたらさ、本当の風也君はどこにいっちゃうの?」


死んじゃうよ?


だって風也君が風也君を消しちゃったら、存在しないのと同じだもん。


そんなの悲しいよ…。


「…でも、お前だって“優しくて完璧”な風也が好きで付き合ったんだろ?それにお前だって、どうせ顔だろ」


消え入りそうな、胸がきゅっと切なくなるような声で、風也君がぽつりと言った。


それは、どこか諦めみたいな投げやりみたいな、そんな風に聞こえた。


「じゃぁ、今から好きになればいいじゃん!」


「え?」


「確かに私は優しくて勉強もスポーツも完璧な風也君が好きだよ!?ちなみに顔も好き!もともと一目惚れだし!!」


「ほらー…「でもっ!」」

ねぇ、聞いて?


私の気持ち。


「でもそれは本当の風也君を知らなかったからでっだけど今知ったでしょ?だから、今から少しずつ、風也君を知っていって、好きになっていけばいいと思う!!」


「それにね!なんて言うか、風也君、私の弟に似てるんだよね」


口が悪いところとか。


「だから親近感?とは違うかもだけどー…とにかく、似たようなもの感じるし」

「…弟って、宮本太陽?」

えっ


「知ってるの?」


「知ってるもなにも…」


風也君が苦笑まじりに目を反らした。


??


「だけど、俺はまだ無理だよ。優等生をやめるのは無理。どうしてもダメなんだ」


そう言った風也君の横顔が、何だか寂しそうに見えて。


理由は分からないけど。


どうして風也君がそこまで完璧にこだわるのかは分からないけど。


何だかそれは、聞いちゃいけないような気がした。


「ゆっくりでいいよ!私は知ってるんだしさっ私の前では、怖い風也君でいてよ!!そっちのが楽でしょ!」


だから、私に出来ることをするよ。


「ん。…ありがとう」


「どういたしまして♪♪」

あれ?風也君の頬、ほんのり赤い気がする。


風邪かなぁ…?


まじまじと見つめていると。


「みてんじゃねぇょ」


の一言。


うっ…やっぱり少しだけ怖いかも?


でも、そんなに怒ってる風には聞こえなかったのって。


…やっぱり私の気のせいかなぁ?