「ここで待ってて」


屋上の扉の前に着くと、瞬君が言った。


心なしか楽しそうに見える。


きっと理由を聞いても教えてくれないだろうから、私はおとなしくうなずいた。

「静かにね」


瞬君は私の耳元で囁くと、屋上へ入って行った。


…瞬君の声って無駄に色っぽいんだよなぁ。


何か変な気分にさせられる感じ?


って言っても私は風也君一筋だけど!!


と。


一人で盛り上がっていると。


「おっせぇんだよ。このバカ!!」


中から男の子の怒鳴り声が聞こえてきた。


ドスの聞いた低い声だ。


あれ?でも何か…


この声に、聞き覚えがあるような気がする。


私は首を傾げた。


それも、つい最近。身近で。


続いて「ごめんごめーん」と相変わらず気持ちがミジンコほどにも感じられない空謝りをする瞬君の声が。

男の子は更にそれに腹をたてたご様子で。


「お前…ぜってぇ思ってねぇだろ」


賛成!


私は顔も知らない男の子に、心の中で賛同した。


この人とは、気が合いそうな気がするなぁ。


心の底からそう思った。


次の言葉を聞くまでは。


「てか女どもまじうぜぇ。放課になるたびに席の周りに群がりやがって。ハイエナみてぇ」


前言撤回。


口が悪い、悪すぎる。


こんな口の悪いひと、出会っていたらきっと一生忘れないだろう。


「えー?でも可愛いじゃん、女の子。特に他の女の子たちと楽しそうにしてると、見せるあのヤキモチ妬いてるような顔」


「般若みたいで」と付け足して瞬君は笑った。


どういうことだ。


瞬君の可愛いの選考基準は般若に似てるか似てないかなのか?


この人の考えていることは全く読めない。


「でも、風也が悪いんじゃん?誰にでも愛想振りまいてるから」


人をからかって遊ぶし。


…ん?ちょっと待って?


今瞬君なんて言った?


『愛想振りまいてるから』

違う。その前!


『風也が』


かざや?kazaya?風也?…風也君?


そんなバナナ。


ありえないありえないありえない。


私はブンブンと首を振った。


だって私の知ってる風也君は、優しくて爽やかで。笑顔だってかっこよくて。


メールでだって丁寧だし。

こんなヤクザみたいな口調じゃなくて。