うぅ…と頭を抱えていると、日向が「片付けるから掃除機持ってきて」と席を立とうとした。


だけど俺はそれを止め、自分でできると言った。


んな危ないことさせられるか。


もし手に破片が当たって怪我でもしたらどうすんだ。そう思っていると。


「でも危ないよ?手に怪我でもしたら危ないし」


日向がそう呟いた。


(それ…こっちのセリフなんですけど)


しかも子供扱いしすぎだろ。


「日向はいいから。早く学校行けよ。…愛しの月下風也様が待ってんだろ」


わざと“様”を強調したことに日向は気づいているだろうか?


だがすぐに自己嫌悪の波が押し寄せた。


(あー…俺だせぇ)


今のこの状況は、とてつもなくダサすぎる。


実の姉に優等生のイケメン彼氏が出来ただけで、こんなに動揺するなんて。


はぁー。


俺は大きくため息をついて、掃除機を取りにリビングを出ようとした。


が、あることを思いだし、足を止め、日向に視線を向けた。


「父さんも母さんもしばらく会社に泊まり込みだと」

朝電話があった。


どうやら緊急で片付けなくてはいけない大事な書類があるんだと、言っていた。

「…そっか」


あからさまにガッカリしたように声のトーンが下がった日向。


日向は我慢する。


“仕事だから”


“しょーがない”


そんなところだろう。


そうやって、日向は何でもかんでも我慢する。


「…俺がいる」


俺は日向の頭に手のひらをのせ、ゆっくりと撫でた。

日向は一瞬目を見開いて俺を見た。


「父さんたちがいなくても、日向が月下風也にフラれても、俺が側にいてやるっつってんのっ感謝しろよな?」


そう言って微笑むと、日向も「…ありがと」と言って安心したように微笑んだ。

…ん?


俺はふとある違和感に気づいた。


何か忘れているような気がする。


大事な…ものすごく大事な何か。


そして俺はその正体に気づくことになる。


「っべ…!日向遅刻!!」

そう。学校だ。


タイムリミットはあと15分。


隣にいる日向も、これはヤバイとあたふたしている。

よしっ走るかっ


心のなかで意気込みながら日向の方へ目線を送るとー…


日向は残ったご飯を一生懸命口いっぱいに詰め込んでいた。


両頬が膨らんで、まるでリスみたいになっている。


案の定日向は食べ物を喉につまらせ、イライラしていた俺が鉄拳を食らわせたことは言うまでもない。