俺には今、どうしても欲しいものがあった。


普通にいけば数万円はするもの。


でも今月は雑誌とか服やらに使いすぎてしまって、困っていたのだ。


かといってこの柳田高校は校則でバイトが禁止されているから、バイトをするわけにもいかない。


「…やるよ」


俺はしぶしぶ了承した。


「風也ならそう言ってくれると信じてた♪ターゲットはー…」


瞬はわざと勿体ぶるように間をあけた。


ターゲットまで決まってんのかよ?


すげぇ手の込んだ賭けだな。


「ー…宮本日向!」


「宮…本日向??」


その名前には聞き覚えがあった。


確か同じクラスの女子だ。

肩まで伸ばした短い髪を、耳の両側で結んでる女。


男子の中でも可愛いと評判の奴だ。


でも本人は少々抜けているらしく、全く男の好意に気づかないという超のつくほどのド天然…らしい。←瞬情報


「でも…何でそいつ?」


まともにどころか、高校に入学して出会って、一回も話したことなんてない気がする。


他の女みたいにきゃーきゃー近寄って来ねぇし、話す機会も接点もなかった。


そんな女を利用するなんて、さすがに俺も気が引ける。


「知らないの?風也」


「は?なにをだよ?」


「あのこ、いっつも風也のことちらちら見てるぜ?顔真っ赤にしてさ」


(やっぱり…)


やっぱりその女もか。


結局はみんな、俺の外面しか見てない。


そう思ったら、その見知らぬ女にも似た、そいつに対する罪悪感もいつの間にか消えていた。


思えば、結構楽しめるかも。


顔とか外面で人を判断する奴に、この本性をバラしたら面白いかも知れない。


「こんな人だと思わなかった!」ってキレるか、「他の人にバラさないから、私のこと好きになって」って脅してくるか。


「やってやるよ。1ヶ月、付き合えたらいいんだろ?」


俺はそう言ってその場から立ち去った。


これから起こることに、胸を踊らせながら。