闇が月を覆ったその時、森から人とは思えない、苦痛に満ちた恐ろしい叫び声が幾多もあがる…。

その叫び声は、憎悪を含み、生ぬるい風に流れる。
黒い塊となったそれは、小さな小瓶に集められるように、吸い込まれていく。


小瓶を持っていた男は、長い煙管を吸い込み、苦々しげに煙を吐き出し、蓋を締めた。


「ったく!
この村には低俗な妖しかいないのかよ!
昔に比べてぬるくなったもんだぜ!」

悪態をつくこの男は、無精髭が顎下に少し生えているが、汚しさはなく逆に男らしく見え、似合っていた。
見た目の年の頃は、30代前半のようだが、実際の彼の年齢はそれをとうの昔に超えている。

今の年齢を問われても、覚えてもいないし、どの位生きたかなどは、興味も湧かない。



彼、ジンを高揚させるのは、美女と命のやりとり…ただそれだけだ。



「管狐でも、一匹殺しゃあ、旦那も簡単に目覚められんのになぁ…。
こんな低俗な妖の魂集めるなんざ、時間がかかってしゃあねぇ!」


イライラしたように、どかっと近くの大きな岩に腰かけ、愛用の長い煙管をふかした。
周りには、妖の怨念が漂っていたが、ジンは気にすることもない。

紫煙が漂う…。



「……管狐を殺したら、旦那様に殺されるぞ…」

暗闇から、声がした。
しかし、ジンは構わず煙をふかす。


「…イチ。
言ってみただけだろうが。
んなこたぁ、分かってる」


ちら と暗闇から姿を現した長身の見慣れた男に目を向け、すぐに正面を向き、面白くなさそうに紫煙をはきつづける。



イチと呼ばれた男は、端正に整った顔に黒髪がよく似合うが、その表情はピクリとも動かず、目の奥は冷めた色をしている。
背には、自分の身長ほどもある長剣を背負っている。