「あの、この料理、次郎さんが作ってくれたんですか?」

机には、煮物や焼き魚など、昔ながらの料理が所狭しと、並べられており、食欲をそそる香りがする。


「はい。姫」


次郎は、桜に名を呼ばれ、嬉しそうに微笑んだ。


「昔ながらの料理ばかりで、申し訳ないんですが…」

「いえ! 全部美味しそうです!
でも、これだけの食材、どこから…」

すると次郎はばつが悪そうに、苦笑いした。

「まだ、こちらの時代のお金を持っていないので、今回だけは妖力を使いました。
本来は、姫のお許しがない限りは、勝手には使いませんが、こういった事には、ちょこちょこと、使っております」

「あ、そうだったんですか…。
すみません…。
妖力、少ないって言ってたのに、こんなに…。
後でお金、渡しますね」


先程、焰と火影に言われた言葉は、胸にささっていた。
自分のせいで、みんなの妖力が少ないんだと分かってしまった…。


しゅん、と落ち込んでしまった桜を、隣にいた烈が、優しく頭をなでて慰めた。

「さっきの馬鹿2人の話なんて、気にすんなよ。
こればっかりは、頑張ってどうにかなる問題じゃねぇんだから」

「…はい」

「そうだよ!桜!
俺は、また外の世界に出られだけでも、嬉しいんだから!
桜のおかげだよ!」

少し離れた席から、炎も援護する。

「僕たちは、真実を言ったまでだけどね。
ね、焰」

火影は気にするでもなく、料理に箸をつけ、桜の前に座る焰にふる。


その時やっと焰は、桜を見た。


髪と同じ漆黒の瞳が、桜を捉え、怖いのに、桜は目を離せずにいた。
焰は桜を一瞥した後、「ああ」とだけ言い、また酒を飲んだ。


次郎は、2人をそれぞれ軽く睨みつけ、桜に向きなおって、微笑んだ。

「烈や炎の言う通りです。
気にする必要は、ありませんよ。
さあ!せっかく作った料理が冷めてしまいます!
皆さん、頂きましょう」

次郎は、ぽんっと手を叩き、自分はお茶の入った湯のみを手に取った。

「それでは姫、これから5人お世話になります。
どうぞ、よろしくお願い致しますね。
では、乾杯!」

「「乾杯!」」

横にいた烈が、酒の入ったお猪口を、桜のグラスにカチンっと合わせ、次郎も湯のみを軽く上げ、烈の向こう側にいた炎も、身を乗り出して、お猪口を上げた。
火影は、軽〜く上げた程度で、すぐに食べ始めた。

桜は、なんだか嬉しくて、また涙が出そうになる。
こんなに大勢で夕飯を食べた事など、1度もなかったからだ。

次郎が作った料理は、全て本当に美味しくて、身体から、力が溢れるようだった。



桜は初めは少し、怖かった。
妖なんて初めて見たし、おばあちゃんの話はただの伝説だと思っていたから、信じられなかった。

それに、今こうやって夕飯を囲んでいる管狐達は、どこから見ても人間で、「妖」という言葉は似つかわしくないから、怖くないのかもしれない…。

でも、美味しい夕飯を食べながら、桜の心は温かく優しさに溢れていた。

ーおばあちゃん、私の為にありがとう…


その夜の宴は、夜遅くまで続いた。




……………




そんな桜を焰だけは、冷たい目で眺めていた……