ここに就職したのは、大した理由じゃない。
高3の夏。
高校生活を謳歌するどころか不登校気味だった私は、成績も驚く程悪く、進学するにも就職するにも手詰まりな状態だった。
別に就職出来なくても、友達とキャバクラとかで働けばいいし。
面倒くさい。
なんでもいい。
生きていければ。
そんな風に全てにおいて投げやりだった時、
「お前、毎日弁当手作りだったよな」
「は?」
「お前が焼いたクッキー、美味いって誰かが言ってたぞ」
そう言いながら、当時担任だった先生が手書きのメモを私に渡してきた。
汚い字で、住所と電話番号だけ書かれたメモに眉をしかめる。
「俺の知り合いがやってるケーキ屋だ。ちょっと遠いけど。」
「え、なに?」
「就職先。まだ決まってないだろ?」
「そう、だけど」
とりあえず、行くだけ行ってみろ!ゴリ押しされて、断るのも面倒になった私が行ってみた先がHONEYだった。
別に就職するつもりなんてなかったけど、店長が私を見た瞬間に「可愛い!合格!」と私の意思も関係無く強引に働くことが決まり、
担任に報告に行くとなぜか泣いて喜ばれた。
「三田、頑張れよ」
「なに、気持ち悪い」
「人生悪いことばっかりじゃない。諦めんな。あんな汚い大人に負けちゃ駄目だ」
痛い位の力で私の肩を掴み、ニカッと笑った担任に、私は小さく頷くしかなかった。
何も考えて無い運動バカにしか見えなかったけど、この三年間誰よりも私を見ていてくれた人だった。
「ありがとう..ございます」
